平成18年度 第24回現代俳句新人賞 田中 亜美(たなか・あみ)

1970年 東京都目黒区生まれ。埼玉県在住。
1998年 「海程」入会。金子兜太に師事。
2001年 海程新人賞。
2005年 現代俳句新人賞佳作。
現在、「海程」同人。現代俳句協会員
著作:「現代の俳人101」(共著・新書館)、S・A・ハンデルマン「救済の解釈学-ベンヤミン・ショーレム・レヴィナス」(共著・法政大学出版局)。ドイツ文学研究者(ドイツ近現代詩)。

「液 晶」   田中亜美

潮騒で終はるシネマや花曇
花冷えや羊歯びつしりと少年期
春宵の梢は白き焔(ほむら)かな
陽炎を封じ込めたる薬包紙
ガス灯にしづかな魚影麦の秋
耳底にゆるき水煙白牡丹
明易し海の濁りの膝がしら
玫瑰や雲を測量する日誌
夏木立カナリア色に肩抱けり
真夜すこし乱気流かな百合の花
遠き火事見つめる情事凌霄花
夕焼けに背く階段(タラップ)鳥ねむる
蜩や加速続ける定型詩
逢へばいま骨の髄までカンナ咲く
レコードのノイズふつくら星月夜
桔梗の瑠璃でありたき嗚咽かな
鳴りやまぬテインパニがあり蔦紅葉
銀漢は裂けやすき肉牡蠣啜る
液晶のごとき疲労よ日向ぼこ
パラシュート閉づやう睡り雪しまき
水平線知らぬひとびと寒薔薇
冬麗の息継ぐときの亀裂かな
フラスコの美(は)しき蒸留雪柳
少女佇ちやはらかな棒花菜雨
ひとつづつ墓碑めく舗石鳥帰る
まなこ無き魚棲むこころ泰山木
天の川喉(のみど)うつとり廃墟かな
野外劇止んでかもめが耳の奥
風も馬も断崖ばかり白木蓮
みぞおちといふ孤舟あり合歓の花

※句は現代俳句データベースにもアップされています。
※略歴は受賞時点のものです。