平成25年度 第31回受賞者 近 恵(こん・けい)
・昭和39年(1964)、青森県生まれ。東京都在住。
・平成19年(2007)、「炎環」入会、石寒太に師事。同人誌「豆の木」参加。
・平成21年(2009)、「炎環」新人賞受賞。「炎環」同人。
・平成23年(2011)、第29回現代俳句新人賞佳作。
・合同句集炎環新鋭叢書『きざし』参加。
「ためらい」 近 恵
灯涼し足先に草触れている
青葉ざわめくノートに何か書きかけて
滴りの音の溜まってゆく身体
音も無く沈む鉄塊やませ来る
海までの橋はいくつか青胡桃
足の裏向けひまわりは高いまま
一声を発し銀漢跳び越える
耳かきが鼓膜に触れて秋の暮
コスモスの暗がりに足入れている
その手摺乗り出しやすく星月夜
カーテンに拭う林檎よ無音の部屋
あと少し泣いたら霧を纏えるか
炒り塩のそこらに跳ねて冬隣
左手の手袋がまた汚れている
裸木をたどって行ける所まで
白鳥よ岸辺に立つときはひとり
冬座敷なら潜んでもかまわない
肺に息留めよ雪が地に届く
狐火の続きは明日見ることに
耳袋どこかがこんこんと眠る
野を焼いて何か握りたいてのひら
シャボン玉ひとつ壊して地に還す
お豆腐を沈ませている目借時
蛍烏賊食べても光らない体
山吹のざわりと麻酔切れかかる
春惜しむ肩に乗らない文鳥と
はつなつの匙がためらいつつ沈む
橋ふたつ越えたあたりの薄暑光
南吹くもうひとつ心臓が欲しい
吊り橋の反対側へ万緑へ
※句は現代俳句データベースに収録されています。
※略歴は受賞時点のものです。