令和4年度 第40回兜太現代俳句新人賞 土井 探花(どい たんか)

1976年(昭和51年)  9月25日千葉県にて出生
2010年(平成22年)頃 作句開始
2013年(平成25年)  夏井いつき氏と出会う
2020年(令和2年)       読売俳壇年間賞受賞
現在、「雪華(ゆきはな)」「ASYL」同人、超結社句会「ほしくず研究会」車掌

「こころの孤島」 土井 探花

薄つぺらい虹だ子供をさらふには 
灰色の人格で見るなめくぢり 
ハンカチは畳める砂漠なのだらう 
てつせんと自由な国へ行くゲーム
張りつめて浮輪せつない枷となり
尊敬ができる胡瓜の曲がり方 
背泳ぎの空は壊れてゐる未来
くちびるに無機質なびる大西日
滝であることを後悔しない水 
ハヤカワ文庫なら夏帽と交換する
暗号化された滴り舐めてみろ
幼虫のゑさの喰ひかたが大暑 
いつからか無害なはだか草の花 
放たれて月はざらりと浮いてゐる 
達人の朝顔うつくしく萎み 
職歴にやまひは書けず水の澄む 
花野崩れ落ちれば繚乱の星  
野分あと脳は不純をぐらつかせ 
せとものの臓器が秋と共鳴する 
ペン入れがいまだ終はらぬ白鳥座 
鳥渡る医院の窓はいつもきれい 
膳といふ自治領に食ふ初さんま 
階段のゆるさを跳ねてゆく秋日 
平和を一年木の実と引き換へに 
小六月壊れてちやうど良い玩具 
プリン・ア・ラ・モード崩せば冬の街
オムライス的な義妹が日記買ふ
寝たら死にさうなあをぞら鶴の鳴く
枯蔓の頑な負けるのがベター
空き缶の底に去年ありすすげない 
読初の性感帯といふ活字 
みぞれ降る降る偽善者のリズムで 
ハンニバル・バルカ炬燵へ入らうか 
人形は氷るたひらな夜に飽きて
寒烏こころの孤島まで原野 
三脚を雪に刺し雪撮つてゐる 
シリウスの銀緯に父を放てたら 
道草の神さまとゐる冬干潟  
冴返る塗りつぶさない性別欄  
実朝忌きゆうくつな服みな捨てて  
春夢からわたしを消してみれば森 
こんな日は仲間はづれの雉が好き 
陽炎の終はりにちよつとした喜劇 
愛しただらうか椿の怒りまで 
水温む飲まねばたぶん死ぬ薬 
子猫だが猊下と呼ばざるを得ない 
翼がないのも花冷のせゐにして 
白日を囀だつたものが降る 
パンジーが幕府をひらけさうですね  
しつとりとパグのしわ拭く春惜しむ

※略歴は受賞時点のものです。