昭和51年度(1976)第23回現代俳句協会賞 佃 悦夫(つくだ・えつお

昭和9年9月、静岡県伊東市に生まる。昭和26年、高校在学中に文芸部顧問の野村浜生に俳句の手ほどきを受ける。昭和29年、浜生の紹介で村山古郷の「たちばな」に入会。以後、何誌かを遍歴したが、かねてより私淑していた金子兜太の「海程」に2号より参加。昭和44年、句集『空の祭』上梓。第2回海程新人賞。第7回海程賞。(「現代俳句協会会報」No.70 1976年12月)

第23回現代俳句協会賞受賞句  佃 悦夫

  山国・他
(昭和50年9月~51年8月)
山国の至るところに喉仏
山国に頻繁に鳴る木器かな
山国に積み重なりし肉の草
山国に来て感傷の水充たす
ぎらぎらの祭り皿類晴れわたり
檸檬の木ふと天上を揺るがしめ
青大将金属質に近づきぬ
馬頭観音祖父ぐぢやぐぢやにあそぶなり
草ぼうぼう母は鬼道に耽るなり
みしみしと夏日膨大な箸ほろぶ
宿敵の闇来たりけり蓬の原
相模伊豆鳥居こわれるほど晴れたり
あらあらしく鳥居をくぐり夏は逝く
かなかなをあやめつくして青乳房
十字架の夏を鏡は食い尽す
紋白蝶すぐ斬新に惨死せり
ひとびとは根絶やしされしわらび山
かなかなにかりそめの閨こわれつつ
仏像が俯伏せに泣く花杏
井戸水のもの凄く透き鬼あそび
(昭和49年9月~50年8月)
新鮮なさすらいに似て草刈り場
あたたかな紋様満てる麓かな
生家より道豊穣に奔り行く
生れし家に水の爛漫鬼胡桃
青梨も蛇もまばゆし人在れば
茱萸食むや傀儡もさらに老い行けり
なきがらに山国の水くだるばかり
白桃も月の暈をも傷つけたり
棘の木は燦然と人ねむらしめ
やわらかにあたらしき罠夏野原
(昭和48年9月~49年8月)
金環蝕ぼうぼうほろぶ一番鶏
深緑も祖霊もけむる金環蝕
異母郷巨岩久しくとむらいぬ
若葉の季ねむりのけむる生地かな
水滴やあおあお木の家裂けつづく
棗にも晩夏したたり修羅の場(にわ)
髪を飾りはるかな郷の白太陽
石仏のまぐわい沈む木の異郷
冬の山うれいのあそぶ白き本
髪が地を蓋(おお)いはじめる闇祭
(昭和47年9月~48年8月)
海軟風生後の水がふるえており
晴れの郷生後の水は充ち足りて
出生日寂寞と天は水はこぶ
生傷が祖霊を呼ぼう水の季
さえざえと食う夏こそは原生地
新緑の降りつぐ祭祀の場が現れる
たんぽぽの光芒あそぶ祝詞(のりと)かな

略歴は「現代俳句協会会報 No.70 1976年12月号」、句は『現代俳句四賞集成』による。