平成元年度 第36回現代俳句協会賞 池田澄子(いけだ・すみこ)
昭和11年3月25日鎌倉市に生まれる。50年「群島」入会のち同人。62年「群島」堀井鶏主宰逝去。廃刊。58年ごろから三橋敏雄先生に私淑。のち師事。63年同人誌「未定」参加。句集『空の庭』刊行。
※略歴は受賞時点のものです。
第36回現代俳句協会賞受賞作 池田澄子
未まだ逢わざるわが鷹の余命かな
屋上で罌粟を蒔き扶養家族なし
夕顔やいくたび米を研ぎ了えき
砥石と刃濡れて相減り冬は冬
元日の開くと灯る冷蔵庫
春宵のつくづくたたみいわしの目
五十回春来て鏡囲いの朝
桜の下散るか散るまで待てません
蓬摘み摘み了えどきがわからない
卯の花腐しハンガーに兄を掛けておく
じゃんけんで負けて蛍に生れたの
まず口をあけて暑き日始まりぬ
主婦の夏指が氷にくっついて
夕顔ひらき戸棚の皿のなまあたたか
腰高の兄よ水母を海に飼い
定位置に夫と茶筒と守宮かな
夏の雨いたみはじめる乳は母
これ以上待つと昼顔になってしまう
相逢うて飯食う疲れ遠花火
夏の終わりの浮きぎみの鱏と傾ぎぬ
味噌醤油涼しくなりはじめておりぬ
食欲兆すさびしさ坐り直す秋
置水は減りつつ秋の髪膚かな
潜る鳰浮く鳰数は合ってますか
行く秋の吐く息くちびるよりぬくし
父の好みの母が小さし茶の花垣
呼んでいただく我名は澄子水に雲
生きるの大好き冬の始めが春に似て
否否と加齢や雪の日の体温
セーターにもぐり出られぬかもしれぬ
霙るるや私の川いや深く
泣きやめて師へ奉る雪兎
拓チャンの書初め大いなる楕円
師も父も夫もおとこ初霞
逢わぬ日を地つづき霞つづきかな
ピーマン切って中を明るくしてあげた
花の盛りの花のまったく見えぬ窓
空腹のあと食べすぎる昼桜
無花果や神も仏も見たことなし
私より彼女が綺麗糸みみず
颱風の目の中部屋の上に部屋
原爆落とされし日の屋上の望遠鏡
君が代の朝の暑さに緘黙す
沸き減ってお湯が濃くなる蟬しぐれ
月の夜の柱よ咲きたいならどうぞ
風花やまばたいて瞼思い出す
日は真上大き目高のちいささよ
春風に此処はいやだと思って居る
戴いてその日咲ききる冬の薔薇
毛糸玉或る時いのちふっと無し