平成3年度 第38回現代俳句協会賞 奥山甲子男(おくやま・きねお)1929-1998
昭和4年2月三重県生まれ。同20年旧中卒ー就職ー敗戦ー解雇ー帰郷。同36年地元「ほこすぎ」句会へ。同37年「寒雷」投句。同38年「海程」投句。同40年から同人誌「営」「鋭」「赫」「木」に参加。同44年中日俳句作家会賞。同47年海程賞。同51年三重俳協賞。同62年県文化奨励賞(文学部門)。
著書句集『山中』『奥山甲子男句集』『飯』『水』。
「海程」「未完現実」「木」「ほこすぎ」同人。
※略歴は受賞時点のものです。
第38回現代俳句協会賞受賞作 奥山甲子男
藁を打つ石も禿頭冬の家
人の死の伊勢沢庵を皿に盛る
冬の田に鍬を残して飯を喰う
日の暈へ家中荒く麦を打つ
はるかなり赫土山の水喧嘩
露草に濡れてまた泣く隣の子
おおひでり鶏がついばむ父の影
雨止めば羽抜鳥まででて来たる
法灯や瓜の頭の黒々と
満月の水越えてくる盆の唄
ま昼間の木々を叩いて山を売る
みんなでて水呼ぶ村の烏瓜
猪を吊る棒かんかんと日差しきて
夜っぴての厠明リと梟と
風の村伏せて瞳つむる地鶏かな
鰤の頭ひょうひょうと雪の庭に
ふるさとのしぐれぐもゆく鬼の面
赤子泣く水すれすれに燕きて
白昼の風のむくろの花じゃがよ
濁流へ人のあつまる山の国
父と子と鉄砲水を見にゆけり
かりがねや山の水曳くめし処
荒びつつ山の掟の十三夜
芹なずな子はささ濡れの膝の上
生国の白無垢明り寒の水
山火事の二日続きの飯握る
冬人足みな立ちあがる灰神楽
春の暮両手ひろげて鶏を追う
父を呼ぶついに泥田となっていて
産みたれば山から提灯降りて来る
菜の花や産婆の札が消えていた
笹山は髭だよ青き村人ら
赤飯を炊いて家中泣きにけり
山中に夜干しの褌(みつ)の静かなり
かぶとむし一晩凄し紙袋
一隅の冬至かぼちゃに日が当る
糧という霧の家には霧の鯉
闇行くは葱かも知れぬ父かも知れぬ
棧俵村に狐の雨が降る
水平に山を見るため棺に寝る
野火消えて山彦山へ還りゆく
きさらぎの竹を担いで田を祀る
むささびの神の影とぶ山の水
あかがねの村人過ぎるざんざ降り
産屋灯のもれていろずく蛇苺
死飛脚昼から時化にぶっつかる
伊勢山中霧の一座がきて泊る
雪の焚火藁人形を抱いてきて
この土を継がしたいから梅の花
藁を打つ老人またたくまに消えぬ