平成10年度上半期 第51回受賞者 辻脇系一(つじわき・けいいち)

昭和12年(1937)北海道空知郡奈井江町生。
昭和29年砂川俳話会に山田緑光を訪ねる、同年「氷原帯」入会。
昭和40年同人誌「粒」創刊同人。
昭和45年同人誌「渦」に参加、47年渦賞。
昭和48年同人誌「海程」に参加。
昭和50年現代俳句協会員。
平成2年北海道現代俳句賞、平成6年札幌市民文化奨励賞。
平成10年第51回現代俳句協会賞。
句集『ゆるやかな昼』(平・元)

 

第51回現代俳句協会賞受賞作   辻脇系一

白鳥の眠りに水は溢れ出て
自死百代冬越す事のあれやこれ
雪解夕暮れうすむらさきは何時からか
地続きに人梅桜やや飢え
寝るまでに桜大きな樹になって
おおかたは素足の時間奈良飛鳥
傘いらぬほどに雨降りにゅうの花
八月十五日戸籍窓口開いている
酒煙草売ります水の澄む頃の
ざくろ喰う体の中は知らぬなり
満月や掃除されたる家の中
末枯るるものの根っこに猫二匹
鶏頭のあったところがまだ紅い
虫の世に出でゆく仕事八雲の忌
かんぴょうもわらびも戻る暗さかな
雪景色どこか鼠にかじられて
雪解けている結婚の儀の手順
腹薬効けよ岩木の山晴れて
十指から葉の出る頃や釈迦牟尼仏
窓を開け今日姫鱒の解禁日
牡丹の芽動かしている馬術かな
分け入れば女と男砂遊び
とまと十個あれば蝦夷富士と笑う
悲しきかなメロン訃報の後に食う
飲食のからだ山塊和して紅葉
童女謡う耕地雑草花付けて
稲妻の残像となり家と君
自動演奏ピアノ働き秋の海
まっしろな国になるまで牛を押せ
交響曲第九門扉に注連飾る
一本の冬木を誘う一視線
新しい雪に隠れて肉食す
白鳥の群れを離れる情死行
音楽といえども雪に囲まれて
七日粥大欠伸して納まりぬ
樽酒に白魚泳ぎ来りなば
食道を若葉通りと名付けたり
声の大きな老人ふたり梅便り
動く手の限りなく憂し泥遊び
木の芽時用心深く髭を剃る
屋久杉を計るためなり腕時計
来よと言う木の声がする残暑かな
巨大耕地に幼女屈むは秋の尿
十勝平野人間を一人余しておりぬ
考古学あって大和の木守柿
ストライクゾーンを満たし秋はある
風よ水よ人よ微々として秋気
琉金眠りたり明日は雪景色
ふたり棲む暗いところのシクラメン
雪祀る人間あまた流れ着き

※略歴は受賞時点のものです。