2008年度 第63回受賞者 田中 いすず(たなか・いすず)
1925年長野県生まれ。
1985年長野県千曲市「坩堝」入会、伊藤文緒主宰に学ぶ。
1987年「坩堝賞」受賞。同年「暖流」「歯車」入会、瀧春一主宰、鈴木石夫代表に学ぶ。
1988年現代俳句協会入会。
1989年「暖流新人賞、太田義治賞」受賞。
1990年から「現代俳句協会研究俳句講座」及び「みなと句会」に在籍、津根元潮、大坪重治講師に学ぶ。同時に「本部月例句会」「吟の会」「ザ・とんがらし」「木の会」等で学ぶ。
1992年「第10回現代俳句協会新人賞」受賞。
1997年句集『ときめかねば』を上梓。
1998年大坪重治代表同人誌「ぽお」に参加6年間編集を担当。大坪重治代表に学ぶ。
2008年「ぽお」終刊。
第63回現代俳句協会賞受賞作 田中いすず
ここまでくればいそいそと年の暮
数え日や「ゆ」という文字が美しい
十二月山手線の安堵感
何の約束つぎつぎに餅ふくれ
灯のような姉のおふるよクリスマス
経典に恋の一章雪こんこ
曲線のひるむことなき寒卵
寒卵三個もあれば行進曲
それから母を笑わせて葛湯吹く
鬼やらい年寄のいる明るさよ
鬼は外福は内とめどなく真面目
春は手のひら誰にでもある手のひら
蟇穴を出るゆるやかな尿意かな
笛の音のような薄氷を掬えり
さくらしべ紅々と滿ちて東北
橡の木が橡の芽におどろいている
耳遠くなり春富士の親しさよ
純粋に単純に犬ふぐりかな
春の雲雲のかたちをして生る
ぎしぎしや生れた日からエキストラ
誰も言わない新牛蒡の白さ
悪友は青麦だった日本晴
すぎなが先頭雨上りのおばあさん
葉桜や老年は老年が眩しい
歴史のつづきに昼顔が咲けり
初?や願えば叶うことを願う
枇杷の種八十歳の存在感
青梅に引力が育っていたり
空?の軽さが解るまで生きて
やさしいって大変なこと蟇
毒あれば毒のかがやき青蜥蜴
晩春や足裏に海豚の感じ
明けるのか昏れるのか大山椒魚
雨のナイター中年に背中あり
夏山へボールを投げる当たるまで
サルビアよ一度も母を抱かざりし
汗のランナー生れ出たときの顔
アスファルトの道を選んだ?がいる
灼け石にしずかな限界がきたり
蓮紅しわれらふつくら加齢せり
蒲の穗の垂直に蹤いてゆけるか
一日が手頃におわり次郎柿
烏瓜あそびたりない赤さかな
風の日の雨の日のあと返り花
柿たわわ小学校が建ちそうだ
抱くほかはない白菜を渡される
猫と大根並んでいるとさみしい
八頭うらおもてなく昼夜かな
子のような地球のような露の玉
同じ白さの嫂と昼の月
※句は現代俳句データベースに収録されています。
※受賞者略歴は受賞時点のものです。