第20回現代俳句協会年度作品賞 久根美和子 「房はづす」30句
◇ 久根美和子(くね・みわこ) (本名同じ )
・1941年(昭和16年)7月20日 長野県生まれ(78歳)
・1997年(平成9年)『岳』入会、宮坂静生に師事
・2016年(平成28年)『岳』第16回ケルン賞受賞
・2018年(平成30年)『岳』40周年記念青胡桃賞受賞
・現在『岳』同人、現代俳句協会会員
・句集『穂屋祭』(2008年12月刊)
第二十回現代俳句協会年度作品賞受賞作品
「房はづす」 久根美和子
死と隣る冷えか雛櫃いでし雛
味噌玉の土偶に似たる貌吊す
野火放つ建御名方を遠っ祖
囀に地祇の応へてをりにけり
啓蟄や蛇腹開きに道路地図
コピー機の釣銭じやらら春休
指かけて開くる桃缶三鬼の忌
刻むべく墓碑に余白やたびら雪
藤房や弥陀は掌あけて待つ
夏至夕べ鏡を夫の素通りす
赤松の宿す女性(によしやう)や梅雨の月
フルートのひんやり重し雨蛙
緑陰に波の音する絵本かな
打水の乾く迅さや反戦歌
向日葵やマーチだんだん恐ろしく
M・R・Iの中は戦場草田男忌
肉体は危ふき器水蜜桃
ごしごし洗ふ恋の蝗捕へし手
石の戸や獣舎のひとつ空つぽに
人に戻る呪文忘れし芒原
メメント・モリ霜枯の八島湿原
秋冷や木霊が淵に帰りたる
霧の宿琺瑯引きの洗面器
マフラーをきつく平和な首根つこ
ひひらぎの花のこぼるるほどの笑み
凛凛と星またたくは凍てぬため
霜月祭仮寝の夢に猿田彦
手袋は軍手のみとふ一世かな
荒星やことば紡ぐに日々祈り
春遠からじ木立花椰菜(ブロッコリー)の房はづす