春キャベツ ボーボワールは捨てた 松元峯子 評者: 寺井谷子

 シモーヌ・ド・ボーボワール~女性論『第二の性』で著名なこのフランスの思想家・小説家。サルトルの伴侶。作者は昭和十六年生まれというから、この一集が出版された一九四九年には八歳。青春の時期には、女性解放と男女平等を主張するこの著書の影響を受けたかもしれない。
 数年前には「ジェンダー論」が盛んであった。そういえば、この言葉が見出しになることも少なくなったと、辞書を引いたら、「ジェンダー」をはじめ、ジェンダーアイデンティティー、ジェンダーギャップ、ジェンダーバイアス、ジェンダーフリー、ジェンダーロールという聞いたことがあるものの中に、「ジェンダーベリフィケーション」という項目を発見した。なんと、女子スポーツ競技で、選手が女性であることを確かめるための性検査。口腔粘膜の性染色体を調べるテストのことだという。記録を更新した女子選手が、(染色体検査といったか)この検査で女性ではなかった…などという報道を耳にしたことがある、と古い記憶が蘇る。
 男女雇用機会均等法なるもので、今や、若い女性の「おじん化」と「草食男子」などという逆転状況。作者の年齢なれば、斯くの如き社会の変化のいささか前を生きてきた年月があろう。『第二の性』と「ジェンダー」の狭間とも言えるか。現実として、結婚をしても仕事を続け、子育てをし…というスタイル。もしくは、家庭を持っても、社会活動を手放さなかったスタイル。
 そのような中から、「ボーボワールは捨てた」が生れたものか。「生活」「生きる」ということの明確なる強さと明るさが、「春キャベツ」によって、瑞々しい輝きを持つ。
 ビタミン満載!の一句。

出典:『丸善の檸檬』

評者: 寺井谷子
平成21年4月7日