風ゆく通夜くずれゆくもの眼をひらき 川崎三郎  評者: 山崎 聰

 川崎三郎といえば、論客で酒好きだったという印象が強いが、当時氏の俳句そのものを見た記憶があまりなかったからだろう。
 句集『北の笛』は、その刊行年からすると、氏の三十一歳のときの句集ということになるから、多分初めての句集だったのだと思う。
 そのためか、今読むと如何にも若書きというか、ストレートなもの云いの句が多く、また当時の風潮を反映して、七(六)七五の頭でっかちの、しかも無季の句がかなり多いことに気が付く。しかし青年らしい一途さに溢れていて、とにかく今云いたいことを必死に俳句にしようといった作者の心情が見えて、さらには、同じ時代を似たような思いで過ごしてきた一人としての共感も加わって、今以って心に残る句集である。
 掲句も無季であるが、もともと季節を詠うだけが俳句ということではなく、もっと大事なのは自分の思いをどのように書くかということであろうから、そのことはしばらく措くとしても、無季俳句特有の難解さがあることは否めない。
 風の日の通夜、生者と死者がゆくりなくも時間を共有する時。そして生者の心の中には、死者について、あるいは人間の生死についてのさまざまな思いが交錯する時。そんな思いの中で、ふと死者の復活のようなことが頭をよぎったとしても不思議ではない。“眼をひらき”がなんとも不気味で不安である。
 不思議だが忘れ難い一句である。

出典:『北の笛』(昭和四十一年刊)

評者: 山崎 聰
平成21年6月1日