百代の過客しんがりに猫の子も 加藤楸邨 評者: 和田浩一 

 「百代の過客」は言うまでもなく芭蕉の「おくの細道」の冒頭の「月日は百代の過客」から得たもの。
 そのしんがりに作者の腕に眠る猫の子を配し、自己と生きとし生きるものへの思いを伝える。やさしさに満ちた作者の眼差しを感じる。
 大岡信編の遺句集『望岳』と楸邨門下の和知喜八の句集『父の花火』の季語の使用頻度を調べて比較し、詩質の違いを指摘したことがあった。
 結果は楸邨の作品には虫や小動物を対象にした作品が多く、喜八は柿、石榴、柚子等の植物季語を多く使用していることが判った。
 従って、楸邨は動物質、喜八は植物質の作家と思った。
 喜八には「猫」を対象とした作品は皆無だが、楸邨は集中、十数句も残している。
 晩年、最も近くにいた動物は「猫」であったのだろう。
 猫を膝に置く楸邨を思い描くと、微笑ましい。
 楸邨の「猫」の句の中でも、冒頭の句は、時空を越えた秀品と言ってよいのだろう。
 詩質の違いはともかく、人間探究派、楸邨・喜八の共通の底流にあるものはヒューマニズムであった。

出典:『雪起し』昭和62年刊
評者: 和田浩一
平成23年5月1日