荒涼と生まれたる日の金盥 津沢マサ子 評者: 宇多喜代子

 かつて自分が生まれた日に使われた金盥が、年月を経たいまつかわれることもなく放置されている風景が見えてきます。「生まれたる日が荒涼」としていたとも読めますが、私には「生まれたる日の金盥が荒涼」と在る光景と見えます。無季ですが秋風の中に見える生家の景のようにも思えます。かつて厳粛な生命の誕生の現場で祝福の声につつまれていた金盥の命運が、そくそくと伝わる句です。 
 
評者: 宇多喜代子
平成13年10月1日