知らない町の吹雪のなかは知っている 佐藤文香 評者: 竹岡一郎

 知らない町はわくわくするものだが、それが吹雪の真っ只中となるとまた話は別で、取り敢えず安宿でも良いから何処かに落ち着きたい。大袈裟に言うなら、知らない町で吹雪に巻き込まれると、街角で遭難という可能性も無きにしも非ず。そんな吹雪の中は知っているというのだから、つまりはこんな厳しく寂しい、冷たい孤独はとうに馴染みなんだと言っているのだ。末尾の「いる」でぶっきらぼうに切るところに痩我慢みたいなものも見えて、それはまた良い。

 これは「知らない」と「知っている」の二項対立が、それぞれ「町」と「吹雪」に属しているのが見どころで、普通は「町」は「知っている」、「吹雪」は「知らない」に属するだろう。既知は安心する要素だし、未知は恐怖する要素だからだ。実際、吹雪は死という未知の要素を大いに含むものだ。ところが、それは知っている、と言う。一方で、町は知らない、と言う。もしかしたら、たとえそれが生まれ育った町であっても、作者は知らないと言うのではなかろうか。吹雪の、どの道にも人っ子一人いない、何もかも激しく真っ白で、凍る風に息も出来ない、そんな状況の方が良く知っているんだよ、と。ならば吹雪とは、町と対峙する作者そのものなのか。

「君に目があり見開かれ」所収。14p

評者: 竹岡一郎
平成29年3月16日