瞬いて桜の花となりゆけり 加藤楸邨 評者: 津根元潮

 楸邨の未発表作品であるが、そのおおらかな詠みぶりに注目したい。瞬くということは今咲いているということなのだが、一見平凡に見えて一語の瞬きという表現が利いていると観る人と、中七以下の表現では平凡と考える人とに解釈が分かれよう。楸邨自体も自己判断を決めかねて発表しなかったと思われる。楸邨の句に「何」「何々」という冒頭句が多いが、おそらく自分で自己批判を絶えずしているのが楸邨句の一つの特徴と言えよう。平凡と非凡の境を行き来するところに作句の本質が顔をのぞかせるのだ。
 
評者: 津根元潮
平成15年4月7日