少年来る無心に充分に刺すために 阿部完市 評者: 森下草城子

 掲出の作品をはじめ、「絵本もやしてどんどここちら明るくする」「うすく書かれて山から山へ行った隊」「あまのはら白い傘さして三月」等、昭和三十年代後半から四十年代前半にかけて、数多くの阿部作品に魅了されていたことを思い出す。とにかく夢中で貪り読んだ、という思いがある。心象の世界にひかれ、韻律に魅せられていた。従来の俳句では味わうことが出来なかったら不思議な世界であった。「少年」の作品、平明に書かれているが、内実は重く、ときに複雑。何よりも少年の存在感を直に感じた。鋭敏で感受性が強く、衝動に駆られる少年の行動は理解が難しい。しかし、この少年の行動の対象は読み手の側に委ねられているのだ。
 
評者: 森下草城子
平成16年1月29日