襟巻や畜類に似て人の耳 西島麦南 評者: 小宅容義

 冬の季題で恐縮だが、この句、ほとんどの歳時記に採用されていて有名である。小学校の頃、ひくひくと耳を動かせる子がいた。犬や猫と同じなのが不思議でならなかった。
 掲句の「人の耳」は別に動く訳ではないが、耳だけに注目すると、人間のは本当に妙な形をしている。それを作者は畜類に似てと言う。よくも言ったものだ。勿論、たとえば高価な狐などの襟巻を付けている婦人と対比させた形だが、それには揶揄的な気持ちも入っているはずで、その辺が庶民の感興をそそったのである。
 作者は飯田蛇笏の高弟で、師とはまた異なった個を確立させた人。対比といえば「昼寝ざめ剃刀研ぎの通りけり」という鋭と鈍を両極に配した佳句もある。
 
評者: 小宅容義
平成16年5月1日