花影婆娑と踏むべくありぬ岨の月 原 石鼎 評者: 松本孝太郎
初学の頃、角川文庫の『現代俳句』(山本健吉著)の中で出遇った句。原石鼎その人をよく知らぬまゝに、此の句だけが脳裏に焼き付いてしまった。今更申す迄もなく、石鼎の「深吉野」時代の代表句だが、どう見ても舌に滑らかなリズムではない。見た眼にもやや違和感を覚える「婆娑」という擬態音、「踏むべくありぬ」といった措辞もやゝ遠廻しの感なきにしもあらずである。にもかかわらず、何かと云うと此の句がすぐ口を突いて出てくるのは何故なのだろう。云う迄もなくそういった瑣末を乗り越えての、一句の格調の高さに帰するのではないだろうか。将に入魂の一句と云ってよいであろう。
岨の月ならではのこの花の影、それはまさしく”婆娑”と踏む以外にはあり得ない濃ゆくて明るい花の影なのである。一度でよいからこんな句が詠めたらと思わずにはいられない。
岨の月ならではのこの花の影、それはまさしく”婆娑”と踏む以外にはあり得ない濃ゆくて明るい花の影なのである。一度でよいからこんな句が詠めたらと思わずにはいられない。
評者: 松本孝太郎
平成20年3月27日
平成20年3月27日