ゆびさして寒星一つづつ生かす 上田五千石 評者: 柏田浪雅
第八回俳人協会賞を受けた五千石の第一句集「田園」の序において、秋元不死男をして「後事を託するに足る男」と言わしめた五千石は、確かな歩みで畢生を俳句大衆の指導に尽くした人であった。
掲句は句集の巻頭を飾る一句であり、その志を大きく掲げて、己自身をも鼓舞する五千石の決意を窺わせる。齢六十三にしての急逝が惜しまれてならない。
その五千石が目指したものは、一言で言えば俳句の境涯化に尽きるであろう。弟子にそれを説き、指導という天職を通じて終生人間としての己を磨き続けた。
試みに平成6年出版の「俳句」を繙くと、幾多の箴言を見出すことができる。
「『俳句とは』『俳人とは』という自問が『いかに上手に俳句を作るか』に先行することは、虚子の花鳥諷詠唱導にさえこもっていたし、新興俳句にも、むろん人間探求派にも、戦後の根源俳句、社会性俳句、前衛俳句の流れのなかでも貫かれてきた。その根底がここで崩れようとしている。」
「詩形の短さを生かすには、その表現を吝嗇にすればよい。そのためには短詩形に過重な負担を強いない生き方とこの小さな器に盛る内容にはじめから期待しないという覚悟を据えるのがよい。この十七文字を珠のごとくに愛し、人生の好伴侶とすれば足りる」
俳句に目的と結果を求め過ぎ、技術と言辞を弄し過ぎる我々への警鐘と受け止めるべきであろう。
秋の雲立志伝みな家を捨つ (田園)
かくてはや露の茅舎の齢こゆ (森林)
夢初め何すべくわが歩みゐし (風景)
白酒のとうとうたらり注がるる (琥珀)
日差子へ
たらちねと呼ばるる汝の四温かな (天路)
「和」を旨とする五千石の遺志は、その句集「和音」によって今年度俳人協会新人賞に輝いた上田日差子によって引き継がれ、その結社「ランブル」に脈々と息づいている。
評者: 柏田浪雅
平成23年11月21日