酔ってさめて氷くだいて星をのむ 小西来山 評者: 川辺幸一

 酔いが醒めても、まだ頭が重くぼんやりとしている。酔いざめの水に氷を砕いて入れると星がきらめいているようだ。その星をゆっくり飲み下した。句意はこのようになろうが、この句の季語はいつであろうか。酔いざめの氷水は夏を思い、星は満天下の星座がきらめく秋を思う。そして、どんな場面が浮かぶであろうか。マンションの自宅、夜景を見下ろすホテルの一室、バーかラウンジかも知れない。山小屋のテラスということも考えられる。
 実はこの句、元禄の作品である。製氷機などがない時代であるから季語は氷、冬の句である。氷の入った水に星がひそんでおり、星がゆっくり咽喉から下りていくという見立てと把握は時代を越えて、今、我々が接する俳句と変わりはない。いや、むしろ洒落た都会生活を活写していると言えないだろうか。グラスの氷に星を見て、その「星をのむ」の表現はまさに近代の感覚と大差なく、酔いざめの倦怠に似た感覚を見事に掬いとっていると言えよう。
 小西来山(1654~1716)は大阪の人、18歳にして師の西山宗因より俳諧の宗匠を許されたという。談林俳諧の祖といわれる宗因は、芭蕉に「この道の中興開山なり」(去来抄)と言わしめたように蕉風俳諧の誕生に大きな影響を与えている。
 談林派の特色は、無季・字余り・口語表現などが自由で、庶民の生活感情を重視した点にあるという。現代に生きる自己表現をめざす現代俳句協会の方向性と同じと言ってよかろう。とかく元禄期の作品は、芭蕉とその一門に焦点が当てられがちだが、西鶴、鬼貫などの他に優れた俳諧師(俳人)がいたことが予想される。目に留まった句を以下に挙げてみるが、多くの作品に接する機会を得たいと思っている。
  木枯の果はありけり海の音           池西言水
  又やあの霧から出でん朝烏          椎本才麿
  目にあやし麦藁一把飛螢(とぶほたる)    菅野谷高政
  文をこのむきてんはたらく匂い哉       岡西惟中
  花を踏んで洗足(せんそく)をしき夕かな   野口在色
  若菜摘婦(おうな)のすがた地蔵かな     水田西吟

参考書籍:『100人で鑑賞する 百人一句』(吉田精一監修・教育出版センター)

     『俳句の論―古典と現代―』(佐伯昭市論文集刊行会) 
 評者: 川辺幸一
平成24年10月1日