枯野ゆくおのれ一人が乱の中 伊藤二朗 評者: 和田悟朗

 冬も深まってくると、いろいろの種類の草がしだいに葉を落とし、とうとう全部枯れ尽きた枯野となってしまう。冬の野は、夏にはあんなに草が競うように葉を茂らせて雑然ともり上がっていたのに、全部枯れ果ててしまうと、量の低い平面的な、冷やかな地球の肌に過ぎなくなる。その中をおのれ一人で通り抜けようとする。しかし、おのれは単純な枯野とは関係なく、心の中は乱れているのだ。ある事に夢中になり、ああでもない、こうでもない、と混乱している。まるで夏野で葉の茂りを競い合ったように、心の中は夏野だ。外界の枯野と心中の夏野の対比が快い。―― しかし、この作者は今年四月、突如としてこの世を去った。
 
評者: 和田悟朗
平成16年11月1日