絹の言葉木綿の言葉賀状読む 宮崎斗士 評者: 中内亮玄
「おい、母さん、嘘だろ。私の年賀状はこれだけかね」
「ええ、さっき孫たちが分けてくれましたよ」
「いやいや、こりゃあないだろう。去年まではこんなに(電話帳を指で挟むようなしぐさを見せ)あったのに」
「はいはい」(笑)
「母さんの方が多くないか、これじゃ」
「はいはい」(笑)
「子どもたちのは」
「そこそこ(電話帳の半分くらいの厚さを指で見せて)あったかしら。孫たちは、ほとんどスマホで挨拶だって。三枚ずつくらい、大事そうに持って行ったわよ」
「そうか」(憮然)
「あなたのは会社と取引先のがほとんどでしょう。定年したら、ねえ」
(憮然、憮然)私だって、そのくらいは覚悟していたが、まさか、ここまで薄くなるのか。
「映画のパンフレットじゃないんだから・・・」(ぱらぱらと年賀状に目を通しながら)
「あら、映画いいわね。スターウォーズ、観に行きましょうか」
「何を言い出すんだ、お前」
「あのころ観たじゃない、スターウォーズ。あの一作目の、前の話が最新作ですって」
「なんだって」(?)
「だから、最新作が、一番最初に観た映画の、前の世界のお話なのよ」
「へえ。そりゃ面白そうだな」
「そうでしょ、思い出の映画ですものね。あの初デートで、あなた、」
「お、母さん。睦月くんのところ、孫生まれたってさ。これ見ろよ」
「はいはい」(笑)
出典:『海程』平成28年5月号
評者: 中内亮玄
平成29年1月18日