フィボナッチ指数のごとく蝌蚪生まる 矢野玲奈 評者: 四ッ谷龍
【数学俳句 その1】
昨今、「数学俳句」なるものが話題になっていて、ときおり数学をテーマとした俳句を目にするようになりつつある。数学俳句をもっとも精力的に発表し、数学イベントにも参加して普及に一役買っているのは関悦史氏だが、それ以外にもさまざまなタイプの作家が数学を扱った句を発表するようになってきた。各俳人はお互いに影響を与えあったというわけではなく、自然発生的にそうした句を作るようになってきているのである。かく言う私も数学を題材とした句を発表しているが、まったく自発的なものであって、とくに他の誰かから刺激を受けたからではない。こうした同時多発的な現象を見ていると、俳句と数学というものは本質的なところで相性がよいのではないか、そのため結びつきやすいのではないかと思われるのである。
掲句、フィボナッチ指数というのは正確には「フィボナッチ数列」と呼ぶべきものである。
1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89….
と続く数列で、最初の2つが1、3つ目からは前の2数字を足した数となる。中世に発見された数列だが、現代数学でも大きな意味をもつとされており、かの「黄金分割」もこの数列から導かれる比率である。足し算でどんどん数がふくらんでいくのが特徴だ。
春になって公園の池を覗くと、一匹また一匹とお玉杓子が泳いでいる。少し目をずらすとさらに何匹もが見つかり、やがて岩陰にうじゃうじゃと塊になってうごめいている蝌蚪の国に気づく。そうした蝌蚪の増殖感を、拡大する数列に結びつけたところに、この作者の豊かなウイットが感じられるのである。
出典:『森を離れて』
評者: 四ッ谷龍
平成30年3月1日