霧に白鳥白鳥に霧といふべきか 金子兜太 評者: 倉橋羊村

 眼前の次第に霧に包まれてゆく白鳥。その白鳥に視点を定めると、回りに立ちこめてきた霧が、動きながらやや深まってくる光景が思い浮かぶ。句中での主観客観のおのずからな切り替えが興味深い。さらに一句全体をつらぬくリズムが、静から動へとなだらかに動き始める感覚も快い。書かれた文体を視覚的に眺めると、「白鳥白鳥」と語を重ねつつ、その間に微妙な休止とスイッチバックの感覚が味わえるのも、俳句形式の妙味といえる。
 
評者: 倉橋羊村
平成14年9月2日