寒雷や耳の奥よりあなたといふ 加藤楸邨 評者: 津根元潮

 これも楸邨の未発表句である。あなたは貴方なのか、彼方任せのあなたなのか、分別のむつかしいところ。呼びかけていて、また呼ばれている、とも感じられる。一番むつかしいのは、作者の位置であり、存在でもあろう。いま思うのは、楸邨の葬のときの長子穂積氏の弔文であった。それは父楸邨に対して仮借なき注文ときびしい批判の一文で、私たちは、わが耳を疑うばかりだった。楸邨の句を未熟と言い、その未熟ゆえに自ら及ばぬことを知るべきだという厳しい言葉は私たちの常識を一撃したのだ。この<耳の奥より>聞こえてくる本音は如何。
 
評者: 津根元潮
平成15年6月2日