炭俵照らしてくらきところなる 小川双々子 評者: 和田悟朗

 今日、ふつうの家では炭俵は置いていないだろう。しかし、火鉢や炊事などに炭火を用いていた五十年ほどの昔のころまでは、大抵は木炭を俵で買って納屋の隅などに置き、小出しして使ったものだ。炭はもちろん真黒だから、明るく照らしても、炭俵の場所はやっぱり暗い場所のように感じられるのだ。作者双々子は、すべての物事をただ陽性にだけ見るのではなくて、暗いものの明るさ、存在しないものの存在、冷たいものの暖かさ、など逆説的な止揚とか否定の肯定という感覚を表現している。この句は句集『荒韻帖』所収。このたび第五回現代俳句大賞を受賞された。
 
評者: 和田悟朗
平成17年3月3日