短夜や乳ぜり啼く児を須可捨焉乎(すてつちまをか) 竹下しづの 評者: 鈴木石夫

 この句に初めて接したのはいつだったか。記憶はさだかでないが、たしか50年ほど前のことだった。
 上五・中七までの発想描写は、ほぼ一般的な従来のものと大差はないが、度肝を抜かれたのは「スベカラクスツベキカ」という漢字による反語の結びであった。こうした漢文調の文体は、平安時代以後のこの国の男性のものであった。しかしここではそんな平凡な常識は見事にくつがえされている。一種の益荒男ぶりといってもいいだろう。お見事というほかはない。胸のすくような一句‥‥
 
評者: 鈴木石夫
平成17年10月3日