夏痩始まる夜は「お母さん」売切です 加藤知世子 評者: 鈴木石夫

 作者は加藤楸邨夫人。明治42年生れ。夫の楸邨は大柄であったが、この人は女性としてもやや小型であった。その小柄が、人並以上に家事を処理し、子育てをこなし、なおかつ数々の文学的業績を残している。世のすべての母親がそうであるように、日中は子供らや夫に頼られ、母親役を安売りしているが、「夜はそうはいきませんよ、私にだってしたいことが山程あるんですよ」と宣言している。この毅然たる姿勢(文体)は、女性のみならず、すべての男性も心底から共感できるところだろう。しかし、この句は厳しさだけではなく、女性としてのやさしさ、暖かさに満ちている。そしてユーモラスである。そこがいかにも心憎いのだ。
 
評者: 鈴木石夫
平成18年3月6日