分け入っても分け入っても青い山 種田山頭火 評者: 田中不鳴

自由律の句。没後の昭和46年に山頭火著作集が編まれ、俳人に加え一般の人の間にも、一寸した山頭火ブームが巻き起こった。その中の注目句。滴るような夏の山、緑を分けて行く実感。自然謳歌が共鳴されたのかも知れない。でもこの句怖さがある。どこまで行っても緑から抜け出せぬ、出口のない怖さ。前書きには「大正15年4月、解くすべもない惑ひを背負うて行乞流転の旅に出た」とある。この懐疑は母の自殺、父の女狂いに己の酒浸り‥‥。人間の弱さ、業、果敢さ。そこから、藻掻いても藻掻いても、抜け出せない寂しさこの句、怖いというよりも寂しい句のようだ。そんな人間に対してのこの目の前の、緑の山の素晴らしさ、自然の美しさ‥‥と鑑賞すると、更に味わいが深くなってくる句のようだ。
 
評者: 田中不鳴
平成18年4月27日