歩き続けて蛞蝓と並びけり 桑原三郎 評者: 田中不鳴

 休まずにずっと歩き続けて来たのだが、この世で一番歩みが遅いと思っていた蛞蝓に、追付き並んでいただけだった。句意はそうだが実際に足で歩いて来たことでは勿論ない。蛞蝓を偶然見たときに、その遅さと自分の来し方が、脳裏で響き合って作られた句だ。そうすると「歩きつづけて」が何を表すかが問題点。桑原さんは「誰でもしていること知っていることを、誰でも知っている言葉で普通に俳句にする。私はこれからもそんな俳句作りをしていきたい。」と言っているから「歩きつづけて」は人生そのものを言ったのであろう。どんなに齷齪したところで、人生そんなに変わるものではないと‥‥。
 俳句は作者を離れて読み手のものとの観点からすれば、読み手の私にとっては「歩きつづけて」は俳句の道であって、蛞蝓と同じ様に遅々として進まぬわが句業を表していると思っている。
 
評者: 田中不鳴
平成18年7月10日