初蝶や少年は血の滲む石 堺 信子 評者: 安西 篤

 この句は典型的な隠喩の叙法によっている。まず「初蝶」という主題は、「少年」という副主題に喩えられ、その「少年」は「血の滲む石」というもう一つの隠喩の含意体系をもって、「初蝶」に働きかける。このとき一句の隠喩構造が作動する。つまり、血の滲む石のような純粋なひたむきさをもつ少年像は、初蝶のもつ無垢な軽やかさにも通う。形式的には初蝶が主題だが、その隠喩表現である少年の含意体系が初蝶の見方を特色づけ、同時に少年をも隠喩するという相互作用になっている。
 作者は北海道釧路在住、今年80歳になるヴェテラン女流。北辺に盤踞する高齢者の瑞々しい詩法に、驚かされるばかりだ。
 
評者: 安西 篤
平成19年7月5日