きりはたりちようつづれさせちよう芸事 阿部完市 評者: 安西 篤

 「きりはたり」は機織虫ともよばれるきりぎりすのこと。「つづれさせ」はこおろぎ。「ちよう」がちょっとわからないが、最近の若者言葉の「すごく…」を意味する俗語のようにも思える。阿部俳句は言葉の意味や情趣を排除して、直感的な表層意識や気分を詠もうとするものだから、意味的に映像化しても句意を読み解くことにはなるまい。とはいえ、一句が伝達されるには、いくつかのかくされた言葉の意味が、立ち上がったり、失われたりしなければなるまい。きりはたりの鳴き声、つづれさせの鳴き声が合奏し、その音の間を「ちよう」と跳び越えていくような感じがある。そして二度目の「ちよう」は、どうも「超」芸事のように聞こえる。この辺になると作者の目論見を離れて、言葉と言葉が呼び交わす自律的運動に入っていく。作者は、そんな騒ぎをにんまりと眺めているようだ。
 
評者: 安西 篤
平成19年10月1日