雪山をはひまはりゐるこだまかな 飯田蛇笏 評者: 松澤 昭

 明治以降の俳句運動の中で、最近とくに再認識したいと思うのは近代俳句の実績であるが、この句はそのうちでも大変高い評価をうけたものである。近代俳句の特色は、その立句ばりにあると言われ、蛇笏のほか前田普羅・村上鬼城・原石鼎らが活躍したものである。それらの卓越した自然観の堂々たる詠みぶりは多くの人を魅了したものであった。特に蛇笏は山岳俳人の最たる存在と言われるだけに、同じく“こだま”を扱ったものとして「冬滝のきけば相つぐこだまかな」もあって、まさしく立句ばりの高邁さを見せている。
 ところが、蛇笏はよく“同じ出来ばえだったら自然句より人事句の方がよい”と語られたものである。その背反した意識をどのように見たらよいのであろうか。そんな交錯した美意識の混淆の根っこからこそ本物の姿が見えてくるのかもしれない。また俳句表現の側面としては主観も客観も同時に飲み込んでしまう大きさと深遠さが必要なのであろう。
 
評者: 松澤 昭
平成19年12月13日