冬の夜の湯槽の底を踏まえゐる 日野草城 評者: 宇多喜代子

 句集『花氷』を読み返していて目についた句。この風呂は、たぶん五右衛門風呂だろう。鉄製でできた湯船が熱くなるので、底板を両足で「踏まえ」て身を沈める。いまほどの暖房設備がなかったころ、冷えたからだを芯から温かくするのは、まず熱い風呂だった。
 「踏まえゐる」のがなんだか頑張って風呂に入っているようでおかしい。
  日野草城かくれもあらず湯の澄に
  何か愉し年終る夜の熱き湯に
 戦後の草城の風呂での句。風呂が好きだった様子がうかがえる句だ。早熟な革新児、無季新興俳句の旗手などと呼ばれる草城のこんな句をしんみりと読んでいると、その素顔が見えてくるようで、気持ちがなごむ。
 
評者: 宇多喜代子
平成20年11月11日