目をとじて雲雀の高さまでのぼる 庵 幽二  評者: 田中不鳴

 春ともなれば、空に向って鳴き乍ら昇ってゆく雲雀や、高き所に留って、チィーチク、チィーチク、ツィーツィと鳴き続ける、雲雀の姿が見受けられる。それは繁殖期に於ける、テリトリー宣言なのだが、私には雲雀が天上の神に向って、良い天気で気持ちがいいよとか、巣の中では五匹も雛がすくすく育って、可愛いよなどと、喋りまくっているように聞える。それは可憐な姿を目にし、楽しげな声を聞いた上での想像だ。目を閉じて神経を鳴き声だけに絞ってみると、鳴き声がどんどん近くなり、雲雀の高さまで自分が、ぐいぐいと昇っていくようだ。目を開いていた時は、想像の世界だったが、目を閉じて雲雀の高さにいるのは現実の世界だ。目を閉じているのに、その高さから俯瞰される景色が、明瞭に見えるのが不思議だ。地球が丸く見えるし、見下ろす大地は、木と草の緑に覆われて、息を呑む美しさだ。この高さまで昇って来た浮揚感、この高さに在る爽快感は、言うに言われぬものだろうし、生きていて良かったと思う幸福感だろう。こんな爽快さを感じさせる句は、今まで見たことがない。そしてこれからも、お目に掛かることが無いのではないかと思われてならない。勿論私にも出来そうもない。
  そんなにも空が好きかいひばりさん
という楽しい句がある。松浦敬親さんの句だが、この方は高所恐怖症なのだそうだ。掲句の作者庵幽二さんも名だたる高所恐怖症。
出典:読広俳句会会誌「群蜂」第四集
評者: 田中不鳴
平成21年3月5日