誰が妻とならむとすらむ春着の子 日野草城 評者: 坂田直彦 

 私が初めて購入した歳時記は、「角川文庫・俳句歳時記」である。そして、最も惹かれたのがこの句である。私は、伊丹三樹彦先生に師事していたので、草城は先師ということになる。
 可愛らしい、無邪気な春着の子が見えてくる。この子もいずれは誰かの妻になるのだとの思いは誰にでも伝わって来る。モデルは昭和七年生まれの長女・温子(はるこ・現「暁」代表・室生幸太郎夫人)なのかもしれない。近頃は結婚しない男女が増えて、社会問題にもなっているが、当時は結婚するのが常識的であった。長男が生まれたばかりの私は、子の健やかな成長を祈らずにはいられなかった。そして、この子は嫁に出さなくてもいいと思ったものである。可愛らしいお嫁さんを貰えればいいと思ったものである。
 草城は、超季感詩としての立場をとっていた。「季感の有無に拘わらず季語の存在を以て俳句と認めるものが伝統派」とし、「馬酔木派」「天の川派・句と評論派」「超季感派」などに分けている。
  見えぬ眼の方の眼鏡の玉も拭く  草城
は、無季俳句としては、最も好きな句である。
 私は、超季派として出発したが、現在は無季容認派だと自称している。

出典:「角川俳句歳時記」
評者: 坂田直彦
平成22年12月11日