雪だるま泣きぬにわかの月あかり 寺田京子 評者: 船矢深雪

 冬の北海道雪の多い札幌では、子供達の作る雪だるまが寒夜の戸外にポツンと佇んでいる。子供の遊び相手の雪だるまを大人も一緒になって作り、それが「さっぽろ雪まつり」の雪像展へと発展した。今では国際的な冬のイベントとして内外からの観光客が来札しているが、その原点は十一月から四月迄を雪と共に生活する寒さ厳しい札幌の素朴な雪だるまである。
 日中の雪だるまは無邪気な姿で寒風を楽しんでいるかに見える。誰もいない深夜、独りぽっちの雪だるまは折からの月あかりに不覚にも泣いている自分を曝してしまう。月あかりがにわかだった故に、身構える余裕がなかったのかも知れない。これが本当の私と、泣く雪だるまに寺田京子がいる。
 寺田京子は、大正十四年札幌市の生まれ。旧満州の鞍山女学校を胸部疾患のため中退。以後札幌で療養生活を続ける。俳句は戦後「壺」「水輪」で作句、昭和二十三年加藤楸邨に師事、「寒雷」同人となり、第一句集『冬の匙』刊行。第二句集『日の鷹』により第十五回現代俳句協会賞受賞。
 昭和四十年の衝撃的な作品、
  日の鷹がとぶ骨片となるまで飛ぶ
は、病弱の寺田京子の「かくありたしの願望」が切なく愛しい。
 病身ながらラジオのシナリオライターもこなし白いベレー帽が印象に残る。
 森澄雄の「杉」同人、北海道俳句協会常駐委員、読売新聞北海道俳壇選者も務めた。
 第三句集「鷲の巣」昭和五十年刊行。
 昭和五十一年六月没、五十一歳。

 
出典:昭和51年「俳句研究」7月号掲載「風音」十五句より
評者: 船矢深雪
平成23年11月1日