楡よ、お前は高い感情のうしろを見せる 加藤郁乎 評者: 木村聡雄
第二句集『えくとぷらずま』からの一句。句集名のエクトプラズマとは口寄せなどの霊媒から立ち現れる心霊体のこと。処女句集『球体感覚』では、俳偕と現代詩という両極からのせめぎ合いが実作品を通して俳句批評的展開を見せていた。続くこの第二句集ではその手法をさらに推し進めて、季感、定型、切れなどの伝統的形式とは対立する作品群が並ぶ。掲出句も俳句の決まりごとから離れようと志向し、書名のとおり論理を超越した心霊体という詩的直観に従いつつ俳句の可能性を追求した作品。楡の木への呼びかけの後、一句全体は意図的に散文へ向かうように書かれている。しかしながら作品は決して散文的解釈を許さない。ここでは植物という感情を持たない対象に感情が与えられ、そこに高さまでもが付加される。さらに楡はその精神の裏側までも見せようとする。この楡の心的叙述には作者の詩的精神が投影されているだろう。
さて、第二幕で舞台が回転すると、真昼の高尚な文学論は夜のネオンの「楡」へと熱論の場を移す。論戦の相手はマダムか看板娘か。駆け引きに敗れ去れば、目の飛び出すほどの勘定書きを握りしめ、今夜も相手の後ろ姿(それは気がありそうだったそぶりの「お前」の裏返しとしてのつれない「うしろ」でもある)を見送るばかりである。
出典:『えくとぷらずま』
評者: 木村聡雄
平成24年4月1日