馬の尻馬の尻ここは雪の国 細谷源二 評者: 辻脇系一

 これは、細谷源二の第三句集『砂金帯』の中の句である。源二と云えば「地の果てに倖せありと来しが雪」が知られているが、昭和30年に自分が初めて山田緑光先生からお借りし書き取ったこの句集を今思い出しながら忘れがたいのは不思議とこの作品なのだ。
 この句集の時代は昭和21年から24年であるが、内容は20年に豊頃に入植した開拓時代を主とする、当時はこの句のように馬は大切な力だったが、手伝いの手間返しなど、貸し借りの中でなければ初めての者にはそう簡単には買えないし使えない、北海道ではすべての作業を馬の後ろから長い手綱で御すのが普通で、それは帯広市で今も行われている輓馬競技の通りで、子供の頃から身近に馬と接していても、いざ農作業で使うとなるとこちらの技量は馬の方がお見通しで、思うようにはうごいてくれない、自分のそんな頃にこの句に出会ったからかも知れないが、この地に渡って来て苦闘の中で見つけた一真実、「雪の国」という真白な雪野を、春をとどこまでも何時までも馬の尻を見続ける寡黙な作業を身近にした。
 源二の書いた『泥んこ一代』には、その頃の苦闘が綴られているが、今ではこうした時代を展望する手だてが資料館以外には無くなってしまっている。
 こんな事を今書くのは、と思いながらも源二が困苦を詠い暮しを書きながらも、その中で確かにこの地で確かめ掴んだ胸底に流れる景色、既にこの自然を受容し、暮らしている人達の何ものかと響き合うもの、ただそれだけの事なのだが、時が経つに従って忘れがたく、鮮明になって来るのである。
 
  明日伐る木ものを云わざるみな冬木   源二
 
出典:『砂金帯』
評者: 辻脇系一
平成25年3月11日