白日傘ゆけどもゆけども爆心地 前川弘明 評者: 福本弘明

 いまだに地球上では内戦や紛争が絶えず、水爆実験まで行う国がある。二度も原爆を投下され、戦争の悲惨さを味わった我が国でさえ、憲法9条が揺れている。日本を取り巻く世界情勢を見れば、致し方ないと思われる面もあるが、つくづく人類は未熟だと思うのである。
 半世紀ほど昔、世界的数学者の岡潔は、「現在の人類進化の状態では、ここで滅びずに、この線を越えよと注文するのは無理ではないかと思います」と書いている(「新潮」1965年10月)。自然の進化は、何度もやり損なっているうちに、何か能力が得られて、そこを越えるというやり方なので、人類が滅びたら、また二十億年繰り返すのもよいだろうとも。
 掲句を読むと、癒えることのない爆心地の傷痕と、どうしようもない人間の宿命のようなものを感じる。「ゆけどもゆけども」というリフレインが、その感を強くする。せめてもの救いは「白日傘」であろうか。夏の陽射しは、原爆投下の季節に直結するものではあるが、紫外線対策の道具として、おしゃれのアイテムとして日本的情緒を醸し出す。爆心地は、日本にしかないのである。
 作者は、長崎で生まれ、長崎に在住。第65回現代俳句協会賞を受賞。長きにわたり長崎原爆忌平和祈念俳句大会の実行委員長を務めた。その活動も評価され、2010年にルーマニアの国民的詩人の名を冠したミハイ・エミネスク賞を受賞した。

出典:句集『月光』(平成24年 拓思社)

評者: 福本弘明
平成28年2月11日