くらがりに歳月を負ふ冬帽子 石原八束 評者: 山崎 聰

 まずくらがりの中で冬帽子を目深かにかぶった男の姿が浮かぶ。オーバーの襟を深く立てていて、顔は見えない。男がうしろに引いている黒い影は、さながらその暗い過去の歳月を負っているかのように暗い。
 作者は生前「内観造型」ということを主張した。氏によると“人間の心の中にあるものは、観念的、抽象的な、もやもやしたもので、外界の事物に托して伝えることのできないものだから、観念だけで造型する方法で表現する”ということであった。掲句など、まさにその「内観造型」の見本のような句であろう。

評者: 山崎 聰
平成17年6月1日