みちのくは底知れぬ国大熊(おやじ)生く 佐藤鬼房  評者: 鈴木石夫

 作者は大正八年、岩手県釜石の生れ、生粋の東北人である。東北の風土に根ざしたヒューマンな血の温もりを感じさせる作風。陸奥(みちのく)は昔から底知れぬ国であった。その奥州や蝦夷地の山中には、現代も羆(ひぐま)が棲息している。その大熊を「おやじ」と読ませているところが、いかにも面白い。土地の人々は昔から、その熊を「山の親父(おやじ)」と呼んで、怖れだけでなく、むしろ親しみを込めて接してきた。この作者も勿論、そうした人々の一人である。「みちのくは底知れぬ国」とは、いみじくも言ったものかな。
 
評者: 鈴木石夫
平成18年1月30日