まだぬくいぬうよ漁火がきれい 宮崎雅子  評者: 野田哲夫 

 宮崎雅子句文集『ぬう』掲載の句。序文は、竹本健司氏。
<ぬう>は猫の名。初代黒猫<馬次郎>以来、彼女の前を、尻尾を挙げ、斜めに通り過ぎて行った沢山の猫たちの総称でもある。
  羽なかばひらいてきたる掠奪者    
  化けものと兜太に云われ春夕  第1句集「梅干太陽」序文は金子兜太氏による
  クリシュナの婚なりジャパンママ踊れ(旅で会ったインドの富豪の息子の婚礼に招かれ)
  月へ捨てる猫くれぐれもよろしく
 城の石垣や石段に、手水鉢や墓石など手当たり次第に組まれているのを見かけるが、雅子の句にも、こうした形跡がある。
これが、ときに奇妙な光を発し、ジャズのような音を乱打する。
  ガラス越しのあくび真っ赤な稗田阿礼
句集では、こんな句が次々と殺到する。
  魔が差して籠いっぱいの赤ん坊
雅子の大きな母性は、猫であれ、家族であれ、インドの息子であれ、日蓮宗の坊主であれ容赦なく羽の下に抱え込み、そして俳句を産む。

 現俳の月例句会で、小柄な雅子はパイプの椅子にチョコンと正座して、市民合唱団で鍛えたソプラノで、披講の役を引き受けてくれている。我々の大切なグレートママである。

 「鋭角」「海程」「国」を経て、現在86歳、ひっそり「ぬう」を主宰する。

出典:『ぬう』2000年9月刊
評者: 野田哲夫
平成23年8月11日