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仏の灯消え数刻の行き戻り

がさがさと雑木を移る十一月

あごひげに鼠を湧かせ濡れ遊ぶ

沖を残す海の面積すつかり見て

ひたひたとひたひたと夜手を消せば

旅終わる浪に指紋の遺せぬまま

この地図のここらで兎のあそべるか

がぶがぶと水飲む斜線から遁れて

白がぽーぽー赤がちーちー樹から樹から

海が暮れ顔暮れ残る顔の幅

傘の柄をぎゆつと握りて齢（とし）をとる

海直かに雨降り揃う降り揃う

流れ去る水にコトンと俺が残る

 

稲葉　直『数刻』（いなば・ちょく／『すうこく』）
［目次］
昭和五十六年　　　　　5頁
大王崎（一）　大王崎（二）　伊那　余呉　鳥取砂丘
昭和五十七年　　　　　55頁
志摩（一）　富士五湖　志摩（二）　秩父　信貴　枯木灘　白浜千畳敷
極私的俳句の「現代」　109頁
稲葉直俳句の定住性と彷徨性　和田悟朗　　123頁
　年譜　　　　　　　　138頁
　著書目録　　　　　　145頁
　あとがき　　　　　　147頁

写真撮影　田沼武能（2019年文化勲章受賞）

昭和59年初版　B6判　147頁
協会在庫管理の新古本。良好な状態です。