万有引力あり馬鈴薯にくぼみあり 奥坂まや 評者: 長峰竹芳

 作者の所属する「鷹」では、二句一章、いわゆる取り合わせの句が多かった時期があったように思う。主宰の藤田湘子が句の切れを重視したこともあるが、この手法は二つのモノやコトが響き合って、しばしば奥深いイメージを造成する。巧妙な配合であったり、二物の衝撃的場面だったりするが、この二つの事物が空間で絡み合い、干渉し合うところが、面白いのである。
 一五四三年にコペルニクスが「天球の回転について」(地動説)を出版し、六十年後にガリレイが天体望遠鏡でこれを実証し、さらに八十年後にニュートンが万有引力の法則を発見した。案外時間がかかっているが、社会全体のレベルが底上げされていなければ、抽んでた発想や優れた思想は認知されないのであろう。
 ニュートン物理学はアインシュタインの相対性理論から量子力学へと展開し、古典物理学に区分けされたものの、万有引力はわれわれの日常の中の現象として容易に実感できる。ここは、相隔つ物体が互いに引っ張り合う作用に馬鈴薯が関わったと理解するだけで十分であろう。
 凹凸のある馬鈴薯に物体としての現実感があり、見えない引力を意識するによって潜在的な心象を抽出した。取り合わせを一歩踏み込んだモンタージュ手法で、飛躍した発想が引力と馬鈴薯による複合効果を上げている。

出典:『縄文』
評者: 長峰竹芳
平成22年9月21日