針葉のひかり鋭くソーダ水 藤木清子 評者: 田中亜美

 針葉とは、葉が針のように細長いマツやスギなどの針葉樹のこと。「針葉のひかり」とは、一瞬、触覚にも視覚にも痛みが伴うような閃光それ自体を指しているのだろう。そして、そのような光が、明滅するものとして、鮮やかなグリーンの色彩をした「ソーダ水」が示されている。「山のホテル」と題された一連の作品の一句で、全体的にモダンで瀟洒な印象であるものの、どこか陰翳も宿すようだ。都会人が日常の生活でふと垣間見せる、こころの奈落といったようなもの。
 作者の藤木清子は、昭和六年から昭和十五年まで作品を発表した女性俳人。発表誌はいくつかあるもののとりわけ、昭和十年に大阪で創刊され、昭和十六年に終刊となった俳誌「旗艦」で活躍していた。「旗艦」の主宰は日野草城、主要同人に安住敦、片山桃史、西東三鬼、富澤赤黄男らがおり、桂信子と伊丹三樹彦も新人として参加していた。名実ともに、新興俳句の一大拠点であった「旗艦」のスター作家だった清子は、新興俳句の女流の先駆的存在として、俳句史における重要な存在といえる。惜しむらくは、治安維持法に代表される戦時体制下の中で、終刊となった同誌の運命と、軌を一にするように、ぷっつりと作品の発表を止めてしまったことだ。その後、清子が俳壇に姿を見せることは、二度と無かった。
 清子の作品は、宇多喜代子の献身的な努力によって刊行された全句集で読むことができる。同書を読んで、私が驚いたのは、ときに鋭敏すぎるとも思える現代人の自我と危機感のありようが、ひしひしと感じられることだ。掲出句をはじめ、彼女は「針葉」というモチーフを繰り返し使うが、それは、不安に晒された剥き出しの神経の暗喩ととらえられなくもない。時代は少し前になるが、「ぼんやりとした不安」という言葉とともに自裁した芥川龍之介のことを、ふと思い出した。
 
出典:宇多喜代子編著『ひとときの光芒 藤木清子全句集』
評者: 田中亜美
平成25年8月21日