石倉夏生(いしくら・なつお)

・昭和16年茨城県生まれ、栃木県在住
・昭和44年より職場俳句会にて作句を始める。
・昭和54年、「響焔」入会、56年同人。
・昭和58年、62年、63年、響焔賞(コンクール賞)受賞。
・昭和60年、響焔結社賞受賞。
・平成3年、栃木県俳句作家協会賞受賞。
・現在、「響焔」「鬼怒」「地祷圏」同人
・現代俳句協会会員(昭和59年入会)

 
第7回現代俳句協会年度作品賞受賞作品
「印象」  石倉夏生
 
境目をさがしに昇る雲雀かな
みづいろの春眠くれなゐの永眠
逃水にさつと黒潮すつと鮫
椿落つ火の零戦は海へ墜つ
あをぞらの鱗の桜ふぶきかな
父のやう桜のあとの坂道は
てんとむしだましに深い空ありぬ
鳴きさうな昭和の亀を飼つてゐる
蛍火をふやす黒人霊歌かな
ひきがへるにも喉仏ありさうな
瞬きを目玉気づかず滝に立つ
一群の向日葵はジャズメンのやう
鬼百合あれは出征前夜の父
はらわたも火点し頃や冷し酒
噴水は永久に白髪且つ怒髪
サングラスとれば荒野の殺到す
手の砂を砂に垂らせり大夕焼
おとがひの上にくちびる夏帽子
素もぐりのぽつかりと浮く終戦日
とある夜大きな桃を戴きぬ
蓮の実の緑を嚙んで旬老人
瞳孔の奥に雨ふる菊人形
月光を液体として象あそぶ
くちびるに涙の入る枯木坂
綿虫を光らせてゐる人差指
竹馬の兄が昭和を跨ぎ来し
梟のみつめし闇のぬれてゐし
闇に降る雪の疾さの昭和かな
くれなゐの水飛沫なり囀りは
文面に青き淵あり春の雪
 
 
※句は現代俳句データベースに収録されています。
※受賞者略歴は受賞時点のものです。