ポノポノ奮闘記Vol. 1
――虹をつくる人――
👤ナカムラ薫
ハワイの人々が大切にしてきた言葉のひとつに、Ho‘oponopono(ホオポノポノ)がある。
「ポノ」とは、ハワイ語で「真の状態」や「正義」を意味する言葉。そこに「ホオ」がつくと、「真の状態へと整える」という行為になる。感情に流されず、原因を探り、静かに調和へと導く。王国の時代から受け継がれてきた島の叡智である。
ハワイ州の公式モットーにも「ポノ」が刻まれている。
Ua Mau ke Ea o ka ‘Āina i ka Pono ― 「土地の生命は正義によって永続する」。
自然と共に生きる人々の精神が、この短い一文に凝縮されている。

そんな「ポノ」の島に、かつてひとつの灯が消えた。それが俳句である。
第二次世界大戦前、この地に渡った日本人移民たちは、日本語新聞の文芸欄を舞台に盛んに俳句を詠んでいた。十数社あった日本語新聞は、情報を伝えるだけでなく、文化を育む大切な場でもあった。けれど、戦後、アメリカの教育を受けた日系2世以降の時代になると、日本語の読み書きができる人は減り、さらに通信網の発達や生活様式の変化とともに、日本語新聞もひとつ、またひとつと姿を消した。そして日本語で詠まれる俳句はいつの間にか途絶えていった。
───再びこの島に俳句の灯を
そう思って始めた私の活動は、まるで荒地に水をまきながら耕すような日々だ。地元のイベントや学校に出向き、まずは「俳句って面白い!」と思ってもらうことからスタート。そうして担当者に、「俳句は、気持ちを言葉に変える力を育てます。平均的で端正な答えを出してくるAIに頼り過ぎず、自分の頭で考える力を育てるんです。」と、今の時代にこそ必要な創造性と文化的な多様性の話をする。笑いと根気、このふたつが欠かせない奮闘なのである。
2025年9月13日
Pearl CityにあるLeeward Community College駐車場で、年に一度の「メガボン」が開催された。ホノルル青年会議所とハワイ東大寺が主催する島最大級のボンダンスイベントだ。文化交流が目的で、今年もJALホノルル支店と現代俳句協会が協賛。私はJALテントで俳句コンテストを担当した。
JALのブランド力は、ハワイではほぼ無敵。昨年は、会場にあのJALの赤白の提灯と幟が目立った。そして、現代俳句協会ハワイの存在は?――ゼロだった。
そこで今年は一念発起。「現代俳句協会ハワイ」の横断幕、垂れ幕、テーブルクロスを新調し、入賞者・参加者全員への景品もたっぷり用意。そして、JALスタッフと「ハワイ虹の詩思句会」の仲間たちでお祭りモード全開!

お祭りだから、俳句を楽しんでもらうこと、俳句の認知度を広めることが目的だ。
「ハイク書いたら、ガチャポンできるよ! 感じたことを短く書くだけ!」
と呼びかけると、「OK!」と言って真剣に書き始める。書き終えたあと、友達を連れて戻って来てくれる人もいた。結果、集まったのは147句(英語119、日本語28)と大盛況。子どもも大人も、笑顔で詠んでくれた。

太陽が西に傾くころ、山の向こうから真珠湾へと大きな虹がかかった。それは、働き者で歌やダンスが大好きな小人の職人、メネフネたちがこしらえてくれた虹だ。彼らは、人間に雨や水、森の大切さを伝えるために虹を作る。赤は王族の象徴カヒリの羽、オレンジはイリマの花、黄色はよく熟れたバナナ、緑は谷のシダの葉、青は深い海の水、紫は女王のドレスの端切れ──それらを混ぜ合わせ、雫を作る。空が青くからっぽになったら、その雫を弓矢につけて天へ放つ。
メネフネは、ポノを──その虹をこしらえてくれている。
