6.定義・登録について
👤小野フェラー雅美(平林柳下)

「これがドイツ俳句の典型的な例というわけではないことはご承知おかれたい」と申し上げた上で、ドイツ俳句に関する私見を1)季について、2)定型について、3)題材について、4)ジャンルの交差について、5)翻訳について、と、5月からテーマを絞って書いて来た。
そして今回は、6)定義・登録について、私なりの考えを提示して最終回としたい。

今年1月号の『現代俳句』に、後藤章氏の「俳句のユネスコ登録の現状と現代俳句協会の立場」が掲載され、協会側から実際その任に当たっている方々の今までの活動の経緯を手短によく知ることができた。
それによると、今の動きには「ユネスコ登録」と「文化庁登録」という2つの流れがあり、協会代表者が双方の任を兼任しているとはいうものの、当初のユネスコ登録推進運動が「現在は文化庁の(無形文化財)登録への協力を優先している」ようだ。
2021年に発効した文化庁の無形文化財登録制度に則った文化庁調査に協力することにより、公の形のユネスコ登録への道の第一歩を拓く登録となる、と私は解した。

その文化庁登録への協力については、国際俳句協会(IHA)が中心となっており、これは、1989年に俳人協会(2013年の会員数約15000人)、現代俳句協会(2020年の会員数約5000人)、日本伝統俳句協会(2018年の会員数約2800人)と国際俳句交流協会(会員数不明)の四協会が合同で設立した国際協会のようだ。
「この登録には俳句の文学としての定義付けは含まれず、多様な俳句の在り方と歴史が記述される模様」という。

これに対し、ユネスコ登録では、「俳句の定義付け」で足踏みをしている様子だ。
現代俳句協会以外のグループの中では有季定型厳守の声が大きいと思われ、三(四)協会のコンセンサス確立までにはまだまだ時間が掛かりそうだ。
いずれにせよ、撤退離脱は簡単だが、各国間外交と同じで対話を続けなければ喧嘩別れになってしまう。
川名大氏が『昭和俳句史』の各所で繰り返しておられるように、現代俳句協会と俳人協会の歩み寄りこそが望まれるので、この協力を通してその道が拓かれることを私は切望して止まない。
この考えに至るには、先月お話ししたドイツ語圏用『HAIKU』(2017年、レクラム出版)の準備段階で、金子兜太氏(現代俳句協会)と黒田杏子氏(俳人協会)の協力体制の力強さを身近に体験することができたことが大きい。
お二人が亡くなられた今、両協会の歩み寄りが頓挫してしまっては「世界の俳句」にとって力を尽くされたお二人の生業が無駄にもなる。
参加して自協会の考えを伝え続けないことには、考えが無いと等しくなってしまう。
一部役員のお腹立ちはもっともだろうが、是非長い眼で大鑑し対話を続け、後藤氏が仰るように、まずナショナルな段階(文化庁)をクリヤーしてからインターナショナルな段階(ユネスコ)に進んでほしい。

@ono-feller

上記記事最後の「ユネスコ登録の狙い」に、ユネスコ登録の意義として、経済面と世界的認知度の確立を挙げておられ、「この文学形式が日本発祥である事実を登録によって確認しておくことは、俳句という詩形の正しい流布のためにも大いに有効であると考える。」と結ばれ、私もそれを宜いたいと思う。

今回6回にわたり、EU内で母国語として使われている最大の言語ドイツ語、ヨーロッパに拡大するとロシア語の次に大きなグループとなるドイツ語(英語でもフランス語でもない)を話す人々の俳句実作の状況をドイツを代表として提示してきた。
ドイツ俳句協会の季刊誌で見ると、三行の分かち書きとはいえ、ほぼ半数以上が常日頃有季定型を基盤として作句していることが分った。
「ドッペルゲンガー」(8音)“Doppelgänger“(4音)で例示したように、言語形態自体が違うので、一行にすると理解度も、詩としての在り様も低くなる。
「俳句」とは大きな「詩」という文学範疇の傘下に入る、中国の影響を受けた上で日本で大成された詩形であろう。
外国語で分かち書きしたものは俳句と称してはならぬ、となると、日本語で有季定型で書かれたもののみが俳句であり、日本語以外の言語で作る三行詩は有季定型であっても俳句と称してはならぬ、という狭量なことになる。
現代俳句協会の立場は、「ますます各国独自の発展へ向かっている」俳句の源をきちんと整理して示した上で、幅広い意味での俳句の定義を可能にしようとしている、と私は解した。
役員の方々のご努力に感謝するとともに、長い行程ではあるが、ご健闘をお祈りしたい。

さて、編集部よりのお声がけのお陰で、あくまで私見ではあっても、ドイツ俳句について私なりの考えをこのように纏めることができたことに感謝したい。
クレームを付けないでしまったが、8月号以外の私撮影の写真も楽しんで頂けただろうか?
(①aドイツポスト記念切手「四季」+b家に飾られた染卵 ②aドイツ俳句協会会誌「夏草」+b南ドイツの鸛 ③フランクフルトの高層ビルとジギタリス ④a+bテン・ブリンク氏提供 ⑤a南ドイツの風景+b中部ドイツの風景 ⑥南ドイツの風景+bベルリンの植物園)

反応がまったくないので、お読みになった方はごく僅かとは思うが、万一また何か寄稿する機会があれば、皆さんはドイツのどのような場面にご興味をお持ちだろう?
ご意見をお聞きできれば嬉しい。

また、第2回、6月号の拙文中、「850万人弱の人口のドイツ」の誤記を、「8500万人弱」に訂正する。
最初の4回はプリントアウトせずに校正したため、他の文字化けなども残ってしまった事をお詫びする。
皆さんにも、校正は必ずプリントアウト原稿で、と、お薦めする。

毎年更新される暑さから皆さんが早く解放され、日本の美しい秋を楽しまれますように。

@ono-feller

割つても割つても空つぽの胡桃だ 柳下