現代俳句2025年5月号「百景共吟」写真提供:飯塚英夫

現代俳句2025年5月号
「百景共吟」より2句鑑賞

👤尾崎竹詩

目ん玉の海を拭へり皐月富士 恩田侑布子

私は最近高齢のせいか、いつも視界が潤んでいる。
ピントが合わないのだ。
その目でさえピントが合うときがある。
早朝の富士山を見たときである。
まるでワイパーで研いたような感覚である。
この句、皐月富士(現在の6月の富士か)を見たときの感動が目玉の濁りを磨き上げたようだというのである。
そう言えばこの百景共吟の写真の菖蒲の花は六月の富士山を連想させる色彩である。
この発想の飛ばし方は大変勉強になった。

    むらごびかり
入道雲斑濃光に崩れけり 山地春眠子

この句の素晴らしい所は入道雲の中に斑濃光(むらごびかり)を発見したことだろう。
斑濃光は単なる紫色でなく所々の紫色が濃く、その周囲が次第に薄くぼかしたような色模様とのこと。
よほど入道雲を観察していないと気づかない感性である。
作者は入道雲の中に見た斑濃光と花菖蒲の写真にどこかに同じ匂いを感じたのかも知れない。
連句における匂い付けのようなものを表現したかったのだろう。
相当高度なテクニックである。

 


👤宮崎斗士

作者の故郷であり今現在の居住地でもある静岡県静岡市。
連作序盤の静岡讃歌とも言うべき二句にとりわけ深く共鳴した。

三光鳥月日はづんでなんぼなる 恩田侑布子

1句目は中七「海を拭へり」の爽やかなダイナミズムが印象的。
まさに目ん玉の度肝を抜く(?)ような、皐月富士のこの上ない煌びやかさが窺える。
そして掲句、三光鳥は静岡の県鳥であり、囀りが「ツキヒーホシ、ホイホイホイ」月・日・星と聞こえることから、その名がついた 。
「はづんでなんぼ」の措辞から作者のクリアな人生観が汲み取れて、何とも読後感佳し。

思ひ出したやうに蚊を打つ女かな 山地春眠子

掲句のトボケ味含みのさりげない所作のありように注目した。
おそらくは話に夢中になっているのだろう。
蚊が近づいていることにうっすらと気づきながら……。

「思ひ出したやうに」の妙味抜群。
この「女」の人となりまでもほの見えてくるようだ。
そして4句目の、下駄の軽やかな音に表象された、ざっくばらんな日常感にも共鳴。
「どぜうでも」の斡旋がぴたりと決まった。
このほのぼのとした日々よ、いつまでも――と読者の私もつい思ってしまう一句。